第52回 甘えも時には必要
私は講演でよく、「過ぎたる厳しさは虐待・過ぎたる甘やかしは人生のはく奪」と言っています。
厳しすぎるのは虐待ですが、行き過ぎた甘やかしはその子供の人格を歪みを持たせ、さらに社会性の力をそいでしまい、自分の人生を自分で生きることができない人間になってしまいます。また社会から孤立してしまうかもしれません。
ですが、「過ぎたる励ましは虐待、過ぎたる頑張りは自虐」とも言っています。
人は応援され、期待されすぎると、追いつめられてしまいます。逃げ道をふさがれてしまいます。
また自分で自分を駆り立てて頑張りすぎると、自分を酷使し、自分で精神状態のバランスを崩してしまいます。
どちらも、格子の格言“過ぎたるは及ばざるがごとし”の結果です。
こどもは感情コントロールも、行動コントロールも、まだ、訓練中です。
勢いついて、思いっきりやり始めて、親が「ちょっと、ちょっと、大丈夫?」と心配になるほどのこともあります。
かと思えば、急に「やーめた!」と放り投げてしまうこともあります。
それくらい、アップダウンが激しくて、ママたちはハラハラさせられてしまうかもしれませんが、だからこそ、“おもしろい”。こどもといると刺激的です。
一般的に、ママとしては頑張ってくれていたほうがたくましく思えて嬉しいですが、こどもは限界がわからないために、頑張りすぎてしまうことがあります。
しっかり者や、いいこ、責任感の強い子、優しすぎる子、面倒見のいい子は、自分が疲れていることや、もうやめたいと思っていることに気が付かないままに、ママの喜ぶ顔が嬉しくて、突っ走っていることがあります。
柔軟性は、人生において、人格においても、生き方においても、自分を守る重要な要素ですが、こどもはまだ自分の振る舞い方の選択肢を多く持たないために、自分の、“周りから持たれているキャラ”通りの振る舞いをします。
ですから、親が本気で、「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」「息抜きしたら?」「辞めてもいいんだよ」と言っても、「大丈夫!」「いや、頑張るよ!」といいがちです。
“自分、疲れてたかな。ちょっとたるんでみえたかな。よし、頑張ろう!”と気合いを入れ直すかもしれません。
これだとどんどん、固くて真面目で熱心な優等生キャラが確立していってしまいます。
優等生が悪いわけではありません。
でも、行き過ぎると、知らぬ間に限界を超えてしまっていて、引き返せず、立ち止まることもできずに、悲劇が起こることもあります。
優等生でいることは、気持ちいいけど、苦しいのです。
自分で自分を追いつめ、苦しくなって、精神的に八方ふさがりになってしまいます。
もったいない。
つぶれる前に“泣き言”も、言えるようにしてあげたいですね。
そうすれば、話を聞いたり、手を差し伸べてあげることもできますし、様子がおかしいときに、早く気が付いてあげることができます。
もしも、「~していいよ」「~したら?」の許可や促しが空回りするようでしたら、次の方法を試してみてください。
○さぼりのお誘い
例えば、こどもが頑張りすぎてると感じたときは、“のんびりする”を教えます。
「お茶しよ~」「デザート食べにいこう!」と、“あなたのため”ではなく、“ママのために付き合って”という姿勢で、無邪気に遊びのお誘いをします。
こうやって、無駄な時間を作り、“楽しむ”という選択肢も持たせます。
もしも、「でもこれやらなきゃ」と言ったら、「お願い!付き合って」と可愛く頼んでください。
そして、のんびりしているときに「あー楽しい。ありがとうね」と声をかけて、その時間に意味を作ってあげて下さい。
時間がもったいないと言う価値観から、“親孝行できてるから、まぁいいか”に変えていきます。
そうやって、無理やり、ガチゴチ頭に割り込んで、隙間を作り、少しずつ、凝り固まった心をほぐしていきます。
共有している時間は、自分の話をするのではなく、こどもが主役でこどもが話す、こどものためのこども時間です。
ところどころで、例えば、「そうだなぁ、〇君はほんとにすごいし、素晴らしいけれど、“こうしなきゃ、あーしなきゃ”って何かに振り回され出すと、人生がどこにいっちゃうかわからなくなっちゃう。
〇君が“これしたいからこうする、これはしないといけないことだからこうする、だけど、これ以上頑張ると自分を痛めつけていることになるなぁ”って、気がつける心の余裕をいつもどこかに持っておけるといいね。」
「頑張るときは頑張る。手を抜くときは手を抜く。自分を大事にできる、ちょうどいいくらいのバランスをとれるようになるといいね。
○君に、グズグズ言われたり、甘えられたりするのもママ、親の醍醐味だよ。
頑張りすぎて〇君が幸せじゃなくなったり、ママに心配かけたくなくて、無理していたりされるほうがママはすごく辛いからね。」などと、と素直にママの愛情を伝えられるといいですね。
○どうしてもガチガチに縛られて抜け出せなさそうなら
奥の手をつかいます。
いつもは“やめておきましょう”と私が言わせてもらっていることをあえて、やります。
例えば、いつもは自分で何でもやらせているなら、「あ、ママやる、ママやる」とニコニコ嬉しそうに、やってください。
また、こどもの、“長所だけど心配なところ”をあえてタイミングを計りながら、「〇〇くんはこうだねぇ」と逆のことを言います。
例えば、真面目だね、頑張り屋さんだねと普段よく言われていて、それがこどもに生きづらさを生んでいるのなら、「〇くんて、真面目だけど、上手に息抜きもできる子だよね!?賢いわぁ」「〇ちゃんって、頑張り屋さんだけど、要領よく手抜きもできる子だよね!?偉いわぁ」と感心や尊敬をしてあげてください。
これでだめなら、もっと、攻めます。
ドラえもんに出てくるスネ夫のママのように、嬉しそうに「もう、〇ちゃんはのんびりやさんなんだから~」「あらあら、ゴロゴロして・・」と嬉しそうに、甘やかして、言ってください。
「そんなことをして、本当にグータラにならないでしょうか?」と心配される人もいるかもしれませんが、そのさじ加減をするのがママです。
適度に、必要な分だけの甘やかしの量と期間を考えて、ちょうどいいくらいで、ストップしてください。
3回に1回とか、5回に1回とか。それを数週間だけ、続けるとか。
例えば、雨の日も風の日も、いつも、こどもが自分で出かけて行っていたなら、「あ、今日はママ送るよ!」と言い、「自分で行くよ」と言われたら、「ママが送りたいのよ、送らせて」と“あなたが大事、あなたが可愛い”を表現してください。
いつもではなく、たまにこういうときも作るほうが温かみがあります。
いつもニコニコしている子も、実は無理をしているかもしれません。
外ではともかく、家でもいつもニコニコ、家族に気を使わせない子というのは、家族に気を許しているようで、めいいっぱい気を張って、家族のムードメーカーに徹しているのかもしれません。
そういう子は、“人の幸せが自分の幸せ”になっていて、自分を犠牲にしていることがあります。
一見、優しくていいこですが、それはひとにとって“都合のいい子”であって、そのこにとっての真の幸せではありません。
人は甘えを許してあげる優しさを持つことが大事なのと同時に、人に甘えを許してもらう許可を自分に持てないと、心は休まりません。
「〇ちゃんは嫌なとき、怒ったとき、ちゃあんと顔に出てるよ!(笑)そんな〇ちゃんもすごく素直で可愛いなぁって思ってるんだよ!」と感情の表現ができるように、素直にその子が自分の感情を感じられるように、“ネガティブな表現だってしていいんだよ”ということを表現し、誘導してあげて下さい。
“そんなあなたも好き。そんなあなたも可愛い”が伝われば、“怒っても、拗ねてもいいんだ”と自分に許可が出せるようになります。
人にすねたり、怒ったり泣いたりは、その人に対しての甘えがあってできる表現です。
“甘え”をママから誘いに行くのです。
「自分のことは自分でする」「自分のことはなんでもできる」ようになったら、しつけは完了。
あとはママは、見守り役ですから、8割くらい、こどもに自立させて、2割くらいはあえて、こどもでいさせてあげると、こどもは心が安定し、満たされ、幸せで、困ったときにママにSOSが出しやすくなります。
“甘えを許す”は、カレーに入れる、隠し味の蜂蜜みたいなものですかね!